転勤や住み替えで「売るか貸すか」を考えるとき、貸す側の皮算用は「家賃12万円×12ヶ月=年144万円」から始まりがちです。しかし、この数字のまま意思決定すると必ず失望します。実際に残る金額は、費用を全部数えると額面の6〜7割前後まで落ちるのが普通だからです。計算を組み立てます。
家賃から引かれていくもの
想定家賃月12万円(年144万円)のモデルケースで、標準的な費用を積み上げます。
| 項目 | 年額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 賃貸管理料(家賃の5%) | ▲7.2万円 | 集金・クレーム対応の委託 |
| 空室損(5〜10%) | ▲7.2〜14.4万円 | 入退去の間の空白。2年に1回の退去で1〜2ヶ月空くとこの水準 |
| 入退去コスト | ▲5万円前後 | 原状回復の貸主負担分・募集広告料(AD)の年平均 |
| 管理費・修繕積立金 | ▲30万円前後 | 貸しても所有者負担のまま |
| 固定資産税等 | ▲10万円前後 | 同上 |
| 設備修繕の引当 | ▲6万円前後 | 給湯器・エアコンは貸主の交換義務 |
ここまでで年65万〜73万円が消え、手元に残るのは年70万〜80万円(額面の50〜55%)。さらにこの残りは不動産所得として所得税・住民税の課税対象です(給与と合算。減価償却などの計算があるため、実効負担は個別に異なります。確定申告が必要になる点も含め、税理士への確認をおすすめします)。
ローンが残っていれば、ここから返済もします。「家賃でローンが払える」かどうかは、額面家賃でなくこの手取りベースで判定してください。
計算の前にある関門: 住宅ローンのままでは貸せない
収支より先に確認すべき問題があります。住宅ローンは自分が住むための融資で、無断で賃貸に出すと契約違反となり、一括返済を求められるリスクがあります。
転勤などのやむを得ない事情では、金融機関に相談すれば住宅ローンのまま賃貸が承認されることがあります。承認されない場合は、金利の高い賃貸用ローンへの切り替えが必要になり、上の収支はさらに悪化します。「貸す」の検討は、金融機関への相談から始まると覚えておいてください。
売却との比較の作り方
貸す・売るの比較は、次の2つの数字を並べると具体的になります。
- 貸した場合の年間手取り(上の計算)×想定保有年数 + 保有期間後の売却価格の目安
- いま売った場合の手取り(手取り計算)
ポイントは1の後半、「あとで売る価格」です。貸している間も物件は築年を重ね、築年帯の段差を降りていきます。いまの売却価格と、5年後・10年後の売却目安(エリアページの築年帯別中央値から見積もれます)の差は、賃貸収入から差し引くべき隠れコストです。
また、賃貸に出している間に自分が使っていた税制上の恩恵(居住用財産の3,000万円特別控除など)が、時間経過で使えなくなり得る点も比較に入れてください。住まなくなってから3年目の年末までの売却が一つの目安とされています(詳細は税理士に確認を)。
貸す判断が向いているケース
計算を並べた上で、貸す側に軍配が上がりやすいのは次の条件が重なるときです。
- 賃貸需要の厚いエリアで空室リスクが低い(市区の流動性は賃貸需要の代理指標にもなります)
- 数年後に自分が戻る具体的な予定がある(定期借家で貸せば戻れます)
- 値下がりの緩いエリアで「あとで売る」の毀損が小さい
逆に、戻る予定がなく、値下がりの大きいエリアなら、比較は売却側に傾きやすくなります(売るか貸すかの判断枠組み)。
まとめ
- 手取りは額面家賃の6〜7割前後。課税とローン返済はその後
- 住宅ローンのまま貸すのは契約違反リスク。金融機関への相談が起点
- 比較は「貸す手取り+将来の売却目安」vs「いま売る手取り」で
- 戻る予定の有無と、エリアの値下がりカーブが分水嶺
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